中毒やアレルギーと化学物質過敏症はどう違うの?
化学物質過敏症は、中毒やアレルギーとは別の病気です
化学物質過敏症は、中毒やアレルギーと似ているので、間違えられることもあるようです。
しかし、「化学物質による中毒」と、「化学物質過敏症」は別物です。
また、「化学物質によるアレルギー」と、「化学物質過敏症」も同じではありません。
化学物質過敏症は、一見中毒やアレルギーと似ていますが、全く別の病気です。
では一体、この3つの違いはどういったところにあるのでしょうか?
中毒とアレルギーについて理解しよう
化学物質過敏症という病気を理解するために、似た病気である中毒とアレルギーについてまとめました。
中毒
中毒とは、体にとって毒性のある化学物質が許容量を超えて入ってくることにって、体の正常な機能が維持できなくなることをいいます。
同じ化学物質が原因でも、症状がいつ現れるかによって、急性中毒と慢性中毒に分類されます。
急性中毒
一度に大量の化学物質にさらされることにより、すぐに症状が出てくるものをいいます。
日本では、オウム真理教による「地下鉄サリン事件」が有名です。
地下鉄車内に毒ガスのサリンがまかれ、化学物質による急性中毒で13人が死亡、6000人以上が重軽症を負いました。
慢性中毒
比較的少ない量の化学物質に長期間さらせれることで、様々な症状が現れるようになります。
世界各国の「慢性ヒ素中毒」が有名です。
ヒ素は自然界に広く存在し、多くの国でヒ素に汚染された井戸水を長期間服用したことによる慢性中毒が問題になっています。
アレルギー
私たちの体には、ウイルスや細菌などの病原体から体を守る「免疫」という働きがあります。
化学物質によるアレルギーでは、「免疫」が化学物質に対して過敏に反応し、不快な症状が現れます。
薬物アレルギーの「ペニシリン・ショック」が広く知られています。
細菌による感染症に用いられる抗生物質「ペニシリン」がアレルギー反応の原因となり、死者まで出たことから大きな問題となりました。
抗菌薬や解熱鎮痛薬なども、アレルギーを起こす可能性がある薬として知られています。
これらは、「薬物過敏症」とも言われていますが、「免疫」が化学物質に対して過敏に反応しているという点において、化学物質過敏症とは異なります。
化学物質過敏症が発症するまでの化学物質の量は?
化学物質過敏症は、中毒やアレルギーに比べてはるかに少ない化学物質の量で症状が現れるといわれています。
そのため、本人ですら何の化学物質に反応しているのか分からない場合もあります。
中毒に比べてはるかに少ない量が引き金になる

化学物質過敏症は、従来の中毒の概念では考えられないほどの少ない化学物質の量で症状が現れます。
発症するまでの化学物質の量は、中毒は1000分の1であるのに対し、化学物質過敏症は1兆分の1というかなり低いレベルです。
慢性中毒も少ない量の化学物質に長期間さらせれることによって発症しますが、それよりもはるかに少ない量で発症してしまうのです。
そのメカニズムに関しては、まだ解明されていない部分が多いようです。
化学物質過敏症の発症には2パターンある
化学物質過敏症の発症には2パターンあります。
- ❶ かなり少ない量の化学物質に長期間さらされることで発症する場合
- ❷ 中毒のように一度に多い量の化学物質にさらされたことで発症する場合
中には、大量の化学物質にさらされて急性中毒を発症した後に化学物質過敏症になる例もあります。
急性中毒の後に、反応する化学物質の量や種類がどんどん増えていき、症状も重くなる傾向にあります。
発症するまでの化学物質の量が人によって違う
中毒の場合、化学物質に一定の量さらされると、100%の人が発症します。
しかし、化学物質過敏症の場合は、化学物質に同じ量さらされも、全ての人が発症するわけではありません。
これは、化学物質過敏症を発症する過程において、人によって化学物質を受け入れられる許容量が違うためだといわれています。
詳しくは、 化学物質過敏症 発症のメカニズムをご覧ください。
化学物質過敏症は、中毒よりは健康であると考えられている
中毒は、化学物質の量が増えれば増えるほど症状が重くなり、死ぬこともありますが、化学物質過敏症の場合、化学物質の量と症状の重さは必ずしも比例しません。
また、化学物質過敏症やアレルギーは、体の中で一定量蓄積されると症状が最もひどくなり、その量を超えると症状が弱くなる傾向にあります。
中毒まで進んでいる人は化学物質過敏症の症状は出にくいといわれているので、化学物質過敏症は、中毒よりはまだ健康で、化学物質の摂取量が少ない段階で体を守ろうとしているのだと考えられています。
化学物質過敏症は、症状も人によって様々
アレルギーの場合、喘息や目や鼻の症状、皮膚のかゆみなど、アレルギー特有の症状がはっきりと現れます。
しかし、化学物質過敏症は、全身に及ぶ様々な症状が特徴で、同じ化学物質が原因でも、人によって全く違った症状が現れます。
一般の病院の検査で異常が見つからない
アレルギーの場合は、血液検査で免疫に異常が現れます。
ところが化学物質過敏症は、病院の通常の検査では、はっきりと異常が見られません。
化学物質過敏症になると、体のどの機能に異常が現れるの?
化学物質過敏症になると、めまい、イライラなどのいわゆる「不定愁訴」といった、よく分からない症状で悩まされるようになります。
アレルギーは、「免疫」の異常反応によるものなので症状も一定していますが、化学物質過敏症は、「免疫」、「内分泌系(ホルモン)」、「自律神経」の3つの機能が異常に反応し、様々な症状が現れるのだと考えられています。
では、化学物質過敏症の人は、化学物質にさらされることによって体にどういった影響を受けているのでしょうか?
体の中に化学物質が入ってきた時に、体がどのように反応するかを見てみましょう。
化学物質は少ない量で自律神経や脳に影響を与える
人の体は、体が化学物質などの環境による影響を受けても、「免疫系」、「自律神経系」、「内分泌系(ホルモン)」の3つの機能が、体の状態をいつもと同じ安定した状態に保とうとしています。
- ❶ 免疫系
- ❷ 自律神経系
- ❸ 内分泌系(ホルモン)

3つの機能は互いに連動し、ひとつ乱れると他も正常に機能しなくなります。
化学物質は非常に少ない量でも脳や自律神経に作用し、免疫機能や内分泌系にまで影響を与えるようになります。
はじめに脳や自律神経に作用するので、自律神経系の症状が現れやすいのです。
化学物質過敏症は、化学物質が体の3つの機能を乱した結果、様々な症状が現れるのですね。
化学物質過敏症は、アレルギーと中毒の両方の性質を持っている
化学物質過敏症は、中毒やアレルギーとは別の病気ですが、化学物質が原因で症状が現れるといった点においては、中毒やアレルギーと同じです。
また、アレルギーと中毒の両方の性質を兼ね備えています。
少ない量の化学物質に反応する点はアレルギーに似ている
化学物質過敏症は、少ない量の化学物質に過敏に反応する点ではアレルギーに似ています。
特定の化学物質が繰り返し体の中に入って来た時に、アレルギー反応「感作」と同じような状態となり、その化学物質に対して徐々に過敏になっていきます。
慢性的な症状が現れるという点は中毒に似ている
化学物質過敏症は、少ない量の化学物質に繰り返しさらされることによって、慢性的な症状が現れるようになります。
化学物質が少しずつ体の中に蓄積した結果、慢性的な症状が現れるようになるという点においては、慢性中毒に近い性質を兼ね備えているといえるでしょう。
中毒とやアレルギーのように多くの人が発症しないので、理解されにくい
化学物質過敏症は、中毒やアレルギーのように多くの人が発症しないので、周囲の人に理解されにくい病気です。
また、「化学物質過敏症」という病気自体も世間ではあまり知られていません。
そのため、私は、身近な人以外の人に化学物質の使用を控えて欲しい場合には、「化学物質過敏症」という病名はあえて使わないことにしています。
発症したての頃は、どう説明したら良いのか分からなかったので、「化学物質過敏症」という病名を使っていました。
しかし、化学物質過敏症を知らない人に向かって化学物質過敏症を説明しようとすると、ものすごく長くなってしまうし、理解してもらうのが難しいということを学習しました。
そういった経緯もあり、たいていの場合は、
「化学物質にアレルギーがあります。」
と言っています。
「アレルギー」という言葉は一般にもよく知られているので、理解してもらいやすいですし、
「アレルギーということなら、この化学物質を使っては大変!」
と、配慮してもらえる可能性も高くなります。
でも、本音を言えば、化学物質過敏症そのものを理解していただきたいです。
化学物質過敏症という病名がもっと世間に広まってくれれば、難しい説明をしなくて済みますし、今よりは化学物質過敏症の患者さんに対して配慮しようという気になってもらえるのでは?と思います。
参考文献:
- ・石川 哲(著) 宮田 幹夫(著). あなたも化学物質過敏症?―暮らしにひそむ環境汚染 (健康双書). 農山漁村文化協会. 1993. 195p.
- ・石川 哲(著) 宮田 幹夫(著). 化学物質過敏症―ここまできた診断・治療・予防法 (生命と環境21). かもがわ出版. 1999. 169p
- ・石川 哲(著). 化学物質過敏症ってどんな病気―からだから化学物質「農薬・食品添加物」を除去する健康回復法. 合同出版. 1993. 138p.
- ・宮田 幹夫(著). 化学物質過敏症―忍び寄る現代病の早期発見と治療. 保健同人社 . 2001. 71p.
- ・加藤 やすこ(著) 出村守(監修). 電磁波・化学物質過敏症対策―克服するためのアドバイス (プロブレムQ&A). 緑風出版 . 2004. 185p
- ・能登 春男(著) 能登 あきこ(著). 明日なき汚染 環境ホルモンとダイオキシンの家―シックハウスがまねく化学物質過敏症とキレる子どもたち. 集英社 . 1999. 245p
- ・宮田 秀明(著). 体内複合汚染―家族の安全と健康、どうすれば守れるの?. 朝日ソノラマ . 2000. 171p
- ・化学物質過敏症支援センター.http://www.cssc.jp.(2018-12-23).